あやかしびと レビュー 総評 ネタバレはそんなにないつもり

原画を見れば明白だが、今ではそれ程珍しくない、少年マンガやアクション映画に多く見られた「燃え」要素を売りの筆頭にもってきている18禁PCゲームだ。
昨日の「燃え」についての記事はこの作品の感想を書きたいための前振りの意味も強かった。「萌え」と同様「燃え」も記号を上手く組み合わせれば体裁をとれる。あやかしびとはこの記号の処理が実に俺好みであり、俺のこの作品へのプラス評価のほとんどがこの部分からだ。
上質な「燃え」のためには記号の質と配置と量が重要だろう。質に関しては個々の嗜好に大きく左右されるので、作者の手腕だけでなく運の要素も無視できない。量をそろえる事は比較的簡単だが、合わせてしまうと矛盾したり、かえってマイナスになってしまう記号もあり、配置が困難になる。
このようなハズレのリスクを回避するために、あやかしびとは戦略として記号の量とそれの分散を重視したように思う。つまり、脇のキャラにも重要度の高い記号を配分し、量と質の相殺を極力防ぎ、トータルの燃え効果を高める戦略だ。
例えば「未熟なキャラが長い下積みや苦難を乗り越えて能力を獲得する」と「強者による決勝戦」といった類の記号はおいしいとは思うのだが、何週も続くマンガやアニメ程には長くない物語で一人のキャラにこれを盛り込んでしまうと反発が生じうる。その点では今作の主人公はいくつかある決勝戦のなかで最終ルートと含めて二つしか勝たせてもらえない。他では前哨戦や消化試合、決勝に参加したものの引き立て役止まりだったりと、最もおいしい所はより記号を配分された、より相応しい他のキャラに譲っている。そのため、作品内ではパラレルであってもこちらとしてはシリアルで見てきた上での最終決戦は「長い下積み」を経たものとして待望感を持って楽しむ事ができた。
また「自身の決して有利ではない能力、立場(参戦にあたり命など大切なものをかけざるを得ない)で全力をつくす」という脇キャラへの配分として定番であり、大好物の記号が積極的に投入されていたのが目立った。脇キャラを立たせる意識というのは、物語創作においてひとつの王道ではあろうが、ここまでリソースを割いた作品は珍しいと思う。